(1)炭焼長者 | (2) みょうがの話 | (3)貧乏神 | ||
(1)炭焼長者
むかし、土佐の国の山の遠国(おんごく)に炭焼小五郎(こごろう)という男があって、日がな日も、日がな日も炭を焼きよった。
からだも黒ければ着物もまっ黒で、いつ洗うたことかわからんような物を着て、髪はといえばわらで結(ゆ)うておる。
もう嫁も持ってもいい年頃だったが、こんな山猿の嫁になろうと言う者はいなかった。それでも小五郎は、平気なもので、炭を米に替える時だけ は、三里も4里も歩いて村へ出て来よった。
ある日のこと、炭を背負うて山をおりかけると、きれいにこしらえた女子(おなご)が向こうからやって来たそうな。 前にも後ろにも共を連れている。 小五郎が、
「これは何者だろう、どこへ行くんかな」
と、ふしぎそうに見とれていると、女子(おなご)が、
「あんたは誰か」
と聞いた。
「わしは小五郎いうて、炭を焼くものじゃが」
と言うと、
「やはりそうか」
と女子(おなご)は喜んでこう言った。
「わしは生まれは大阪の鴻池(こうのいけ)の娘じゃが、年頃過ぎても縁が無くって、いままでひとりで過ごして来た。
先日、神様に聞いてもろうたら、
『土佐の山奥に炭を焼いて過ごしてゆきよる、炭焼小五郎という者がおる。 その者と夫婦の縁があるので、もらいに来て
もらわんだったら(くれなかったら)自分から捜しにいかにゃいけん』
と言われたから、こうして海山越えて来たわけじゃ。」
小五郎は、あきれかえって、
「いや、わしはあんたのようなお姫様を家内(かない)に持てる者じゃねえが、まあ道で話すのも
何じゃけん(よろしくないから)」
とお客を連れて家に帰った。
家とはいっても掘立小屋(ほったてこや)で、鴻池の長者の厠(かわや)より小さい家だ。(厠 ー 便所)
けど話してみると小五郎は、なりこそ穢(きたな)いが、心根(こころね)は子どものようにうぶなのが、
いとはん(お嫁さん)の気に入ってしまった。 娘は、
「どうでも、あんたの家内にしてもらわにゃいかんのです」
とがんばった。 なんぼう(いくら)たっても帰ろうとしないで、召し使いは里へ帰してしまい、一日泊まり二日泊まりして、
とう炭焼小五郎の女房になったそうな。
小五郎は、昔のことじゃから、ほうろく鍋でかゆとも雑炊(ぞうすい)ともつかぬものをたいて食べるので、
女房は、「飯は私がたきます」と
代わったが、米が無い。 おかずにするようなものもない。
「あんた、里へおりて、米やらおかずを買(こ)うて来てくれ」
と、袋から小判を出して渡したそうな。 小五郎は、いままで小判なんか見たことも使ったこともなかった。 山を下って買物に行きよったところが、池の中に鴨が浮かんでいるのが見えたので、
「おお、きれいなものが浮きよるな。 びっくりさせてやろう」
と思うと、その鴨をねらって小判をブーンと投げつけてしまった。 小判は鴨にはくらわんで池の中に沈んでしもうた。
小五郎が、のっそりと手ぶらで帰って来たもんだから、待ちわびた女房はわけを聞いて、
「お金を捨てたらいかんがな。 あんたはお金が何か知らないのか。 あれは小判といって金(きん)でこしらえた大切なものじゃ」
と教えた。 ところが小五郎は、
「あれが金(きん)か。 あんなもんなら、わしの炭焼がまのそばになんぼでもある。 邪魔になって困るほどじゃ」
と、こともなげに言うのっだた。 まっことかと(ほんとうかと)、女房が夫と連れだって行ってみたら、なるほど、
泥がみな、ぴかぴかの金の 山じゃったそうな。
女房は大阪の里へ頼んで袋をぎょうさん(たくさん)送ってもらった。 袋が届くと、金の泥をかき入れては、大阪へ送りつけたと。
大阪には炭の蔵というものを建ててもらって、倉を、炭ではなくて金(きん)でぎっちりいっぱいにしたそうな。 いまあるかないか知らないが、それは「住友」のはじまりじゃそうな。
・・・・・高知県幡多群・・・・・
(2) みょうがの話
あるところに、旅の商人(あきんど)を泊める茶屋があったそうど。
爺(じ)さんと婆(ば)さんが茶屋を出して、商人(あきんど)を泊めたりしていたれば、あるとき一人の薬売りが泊まったそうど。<
その薬売りは、三月(みつき)も半年も村々を回って銭をたんと持って泊ったので、用心ののため婆(ば)さんに、
「預かってくれ」
と言うもんで、婆さんが仏壇の下の戸棚に入れてくれたそうど。
商人(あきんど)が湯に入っている間に、爺(じ)さんと婆(ば)さんが、初めて見る大金に目ががくらんで欲を出して、この金を自分のもんにする相談したところ、
「それはミョーゴ(みょうが)をいっぺえ食わせれば物忘れするそうだすけ、ミョーゴを食わそう」
と相談が決まり、汁の実もミョーゴ、おひたしもミョーゴ、胡麻あい物もミョーゴ、漬け物もミョーゴと、ありったけのミョーゴの
ごっつおを夜も朝も食わすので、商人(あきんど)も気がついて、これは忘れもんをさせようと思ってミョーゴを食わせるんだすけ、
しっかりして、預けた金を忘れたふりして忘れねえようにしようと思っていた。
いよいよ朝立のときもきて、挨拶して、
「どうもご厄介になりました」
と庭先でワランジをはいたども、預けた金のことは一言も言わんので、爺(じ)さん婆(ば)さんも、挨拶しても金のことは言わんし、ワランジはいても金のことを言わんし、こらーいよいよミョーゴがきいたと二人で顔見合わして、目鼻で合図していたれば、
商人(あきんど)は荷物をかついでドッコイショと立ち上がり、またまた丁重にご厄介になった令を述べたので、二人は、いよいよ金のことは商人(あきんど)忘れたわいと、腹ん中では大喜び
だが、口先は馬鹿丁重に、
「道中気をつけていかんしゃい」
と挨拶した。 商人(あきんど)も、
「いやどうもありがとうござんす、昨夜(ゆんべ)は大変ごっつおになったすけ、元気も出て旅も無事に続けられると思う」
と礼をを述べたので、二人はいよいよ金のことは忘れたと大喜びしていたところ、商人(あきんど)がまた、
「いやー、大変ご厄介になりました。それじゃ行かせてもらいます。時に昨夜(ゆんべ)預けた財布をいただきます」
と言うたもんで、爺(じ)さんも婆(ば)さんも仕方なしに財布を渡したども、さんざ気をもたして揚句、財布を持って行かれたので
がっかりして口もきかず、爺(じ)さんは囲炉裏端でタバコばっかプカプカ吹かし、婆(ば)さんは何もする元気もなく店の先に
すわりこんで、一時(いっとき) ほどして爺(じ)さんがハッと気がついて、
「婆(ば)さんや、商人(あきんど)から宿賃もろーたかや」
と言ったが
「いやおらもろわんが、爺(じ)さんお前こそもろたかや」
と言うこになって、商人(あきんど)にミョーゴを食わせようとと思ってて、自分達が先になって食って見せたもんだすけ、物忘れは
商人(あきんど) にきかんで手前(てめえ)達にきいたと。 欲の皮があまりつっぱると自分も損をすると。
そんでいきがすっつあけた。
昔話十二か月 七月の巻きより
(3)貧乏神
昔あるところに夫婦者が住んでおった。